いのくち医院 (久留米市／西鉄久留米駅)
猪口 哲彰 院長の独自取材記事
西鉄久留米駅からバスで10分のところにある「いのくち医院」は、糖尿病とリウマチ膠原病分野を軸に診療を行うクリニック。院長の猪口哲彰先生は久留米大学病院で糖尿病を専門とする傍ら、関節リウマチなどの膠原病治療の必要性を感じて新たにそのジャンルを開拓した、2つの専門を得意とするドクターだ。同大学医学部の講師を経た後、高齢であった父のクリニックを継ぎ、1998年に開業。生物学的製剤なども積極的に導入し、患者の苦痛緩和に努める。日本内科学会総合内科専門医でもあり、日々最新の知識の習得と提供を心がけている。地域外からも訪れるという多くの患者を抱え、現在は4人の医師で診療を行う。忙しい診療の合間を縫って、糖尿病教室や運動療法にも熱心に取り組む先生に、疾患についてや診療に対するポリシーなどを聞いた。
糖尿病と膠原病治療の研鑽を積んだエキスパート
糖尿病とリウマチ膠原病分野を専門とされていると伺いました。
昔は今とは違い、卒業後はみんなが医局に所属する時代でした。私も久留米大学病院の呼吸器・神経・糖尿病・内分泌などを扱う第一内科に入局。一般的な内科診療を網羅しながらも、1つの疾患を深く学びたかったので、患者が多くニーズの高い糖尿病を専門としました。懸命に勉強しながら日々の診療にあたっていた時に、大学病院の再編期に差しかかります。診療科が細かく分類され、診療内容がいろいろと削ぎ落とされたことで、第一内科では糖尿病に関わることができなくなったんです。
なるほど、それでリウマチ膠原病分野を開拓されたのですね。
大学病院に残って何を学ぼうか考えていた時、関節リウマチといった膠原病を診る診療科が存在しないことに着目しました。膠原病は皮膚や内臓の結合組織や血管に炎症・変性を起こし、さまざまな臓器自体にも炎症を起こす病気の総称です。比較的新しい考え方の病気で、当時はこれといって効果が見込める治療法もなく、対症療法のみで経過を見ることが通常でした。そこで、膠原病を扱う診療科を創設し、大学病院に浸透させていきました。そのような経緯で、現在私の専門は糖尿病とリウマチ膠原病分野というわけです。ちなみにこの2つの領域の病気の因果関係はまったくなく、完全に別の疾患です。
リウマチと膠原病はどのような関連があるのですか？
一般的にリウマチ膠原病と呼んでいますが、膠原病自体は、全身性エリテマトーデスや強皮症などいくつかの疾患に分類されます。中でも約8割と最も多くを占める疾患が、関節を主体に炎症を生じる関節リウマチです。今から50年ほど前は関節リウマチは進行を止めることはできず、不治の病と考えられていました。しかし時代が進み、2000年あたりから生物学的製剤といった新しい治療薬が登場しはじめ、劇的に治療方法が進化。点滴や皮下注射で痛みを和らげることが望めるようになりました。現在は関節リウマチでひどく関節が変形する方や亡くなる方は、以前と比べるとかなり少なくなりましたね。治療薬が高額になるといったデメリットはあるものの、今は寛解をめざせる病です。
病気を過度に心配せず、今の自分を楽しむことを大切に
関節リウマチというと整形外科のイメージもありますが、内科で診療するのですね。
関節リウマチはかつて、内科が中心となって治療にあたる東日本に対し、西日本では主に整形外科で診療するという風潮がありました。関節の痛みや変形を訴える人が多かったので、外科的診療を行う整形外科の領域という考え方もあったのでしょう。そうした歴史的背景を理解しつつ、新しい薬物療法の導入や自己免疫疾患による全身管理の必要性などから、現在では内科の医師が関わることが重視されています。ただ、あまりにも変形がひどく、注射や手術が必要なケースは整形外科で診ることもあります。糖尿病はポピュラーな疾患なので診療している先生方も多いですが、関節リウマチはそれほどよくある疾患でなく、なかなか専門の医師がいないのが現状です。近隣の病院のリウマチ・膠原病科が閉鎖したこともあり、当院では関節リウマチを含めて、膠原病の患者さんのほうが割合的に多いかもしれませんね。
糖尿病についてはいかがでしょうか？
糖尿病の特徴は口渇、多飲、多尿です。体形は肥満の方ももちろん多いですが、最近体重が急激に減少してきたという方にも実は糖尿病が隠れていることがあります。糖尿病には1型と2型があって、圧倒的に2型の患者さんが多いです。1型は常にインスリンを打たなければいけないくらいの病状ですが、2型は生活習慣の改善や肥満の是正により改善を図れることもあります。患者さんの状態によってはエンドレスに通院しなければいけない病気でもなく、通院の間隔を緩やかにしたり、数値の管理だけで済んだりする患者さんもたくさんいらっしゃいます。昔に比べると、だいぶ状況が変わってきました。結局のところ、同じ一つの疾患でも種類や病状によっていろいろと分類されるので、治療法やアプローチの仕方はお一人お一人違ってくることを理解していただきたいですね。
患者の病気への意識も変化してきているのでしょうか？
何かしらの症状があって来院される方ももちろんいますが、無症状でも健康診断で悪い数値が出たといって来院される方が増えましたね。それから他のクリニックにかかっているけれど、心配なので診てほしい、といった方も。近年では人々の病気への関心度もかなり上がってきているのではないでしょうか。もちろん健診や診察は大切ですし、病気の早期発見は治療を大きく左右します。しかし病気を見つけに行くためだけに高頻度で健診を受ける必要もないですし、人体には思っている以上に自己を守る働きもあるんですよ。ですから、病気になることを考えすぎてストレスをためこむより、今の自分を思いきり楽しんで大事にしてほしいと思いますね。
患者のニーズをくみ取り、一人ひとりに適した医療を
糖尿病教室なども開催されていますね。
当院では月に1回糖尿病教室を開いており、開催回数もすでに340回を超えました。糖尿病の知識や予防法などについての講義を中心に、時には調理実習をしたり、また公園に出て一緒に運動をしたりと看護師や管理栄養士、薬剤師、運動療法の知識を持つスタッフを巻きこんで一緒に取り組んでいます。開業当時からずっと続けているものですから、もう辞め時もわからなくなってしまいました（笑）。やはり患者さんへのアウトプットや教育は大事だと思っているところです。診療の合間に準備や講義の時間を取るのはなかなか大変ですが、ポリシーを持って取り組みを続けています。
患者さんと接する上で大事にしていることは？
さまざまな患者さんのニーズを見定め、お一人お一人に適した応対をしていくことは大事にしています。そのために、診療をできる限り新しい内容にすることは欠かせないです。今はネット社会なので情報も多いですし、患者さんは自分の病気のことは調べているので詳しいんですよ。ただフェイクニュースもあふれていますので、そういったことをきちんと否定できるようにやはり私も勉強していかなければなりませんね。日進月歩の医療業界ですので、常に患者さんに新しくて良い治療を届けることをめざしています。息子の大学受験と同時期に、日本内科学会総合内科専門医の試験があり、一緒に勉強をしたところ資格取得に至ったこともありました。
読者にメッセージをお願いします。
当院は、急性疾患についてはご近所の患者さんも来院されますが、糖尿病とリウマチ膠原病分野での来院は大半が地域外からいらっしゃる方々です。そう考えると案外「地域医療」という言葉はあてはまらないかもしれませんね。しかしながら、行政とのつながりや近隣のクリニックとの連携ももちろんありますので、それらをかけ合わせ、バランスの取れた医療を考えていかなければと思います。患者さんの中には病状が良い方、悪い方とさまざまな方がいらっしゃいますし、その状態も日々変わっていきます。目の前の患者さんに向き合いながら、時代の流れに合わせた診療を提供していきたいです。
